声優養成所に通っていた頃、「ラジオ実習」というものがあった。
しっかり防音されたレコーディングルームに、生徒一人で入る。ガラス窓一枚をへだてた所で見守る先生やミキサーさん(音響を設定する人)の視線を感じながら、3分間フリートークをして、音楽紹介をする……よくあるラジオの流れを学ぶ授業だ。
この3分間のフリートークが大変だった。
ラジオなので、あらかじめ決めた原稿をそのまま読むわけにはいかない。しかも3分間の時間制限がある。
なぜ3分間なのかと言えば、人が集中して話をきけるのはそれくらいの時間だから。それ以上聞かせるには相当のスキルが必要だという。
その場でパッと3分間話せるほどのスキルはないので、だいたい話の流れを決め、何度か家で練習し、授業に備えた。
レコーディングルームの扉を閉めると、全ての雑音が消える。
大勢の前で話すのと違い、ガラス窓の向こうにいる先生達を見なければ、まるで一人きりでいるような静かな空間だ。
ヘッドフォンを装着し、マイクの位置を確認。キュー出しのサインでスタートだ。
時計を見て残り時間を確認しつつ、何とか話を終える。
そこで先生から言われたのは「早口すぎる」「何を言ってるか分からないまま話が終わった」の評価。
そんなに早口だっただろうか? 疑問に思いつつ、録音された音声を自分でも聞いてみる。
すると、なんでこんなに早口なの?とびっくりするほどツラツラと話していて、間がない。自分では、もっとゆっくり話しているつもりだったのに。客観的にきいた声が、自分が思っていた声とあまりに違って、がっかりした。
以下、先生に言われた注意点を上げていく。
①聞き手を意識し、間をとること!自分が思うゆっくりな話し方より、1,5倍はゆっくり話す!
レコーディングルームでは一人かもしれないが、ラジオの向こうでは大勢の人が聞いている。しかし、大勢という多数に向かって話すのではいけない。見えない誰か、たった一人に対して話しかけるのが、ラジオのしゃべり方なのだ。
ラジオの向こうにいる視聴者の顔は見えないが、ガラス窓一枚へだてた所にいるミキサーさんは、そこからでも見える。
まずは、きいている人の顔を見てみる。
うんうんと頷いていたら、伝わっている。首を傾げていたら、伝わっていない。
相手の反応を見てから、次に進むこと。そうすれば自然な間が生まれる。
②一つの文はできるだけ短くまとめ、「、」でずっと続けるのではなく、「。」できちんと止めること!
「~で、~と思って、~と言われて、~で、~で……」のように、一文が長く続くと分かりにくい。
「~で、~と思った。~と言われて、~だ。そして……」文章をある程度短く区切って話す方が分かりやすい。
書き言葉ではなく話し言葉だからこそ、長く間延びしやすい。
③話の着地点を決めること!
自分が何を話したいのか、まずは結論から切り出す。後から、どうしてそうなったか、経緯を足していく。
技量がある人は別だが、話が下手な人は、まずはそういう話し方をしてみる。
分かりやすく説明しようとするのは良いが、説明を重ねすぎてなかなか本題に入れないことがある。すると、言いたいことを伝える前に飽きられてしまったり、話がズレてしまったりする。それを防ぐためだ。
かつて「ラジオ実習」で習ったことだが、今になってよく思い出す。もっとも、できる、できないはまた別の話だが。
執筆者:塩利